こんにちは!
今日は末梢神経障害の中でも尺骨神経麻痺についてのお話をしたいと思います。今回で第4回目になります。前回までの内容に関しましては、末梢神経障害を正しく評価するために①~末梢神経障害の基礎知識~、末梢神経障害を正しく評価するために②~末梢神経障害に共通する評価~、末梢神経障害を正しく評価するために③~正中神経麻痺~を見ていただけたらと思います。本日もどうぞよろしくお願い致します。
<尺骨神経の解剖>
腕神経叢の内側神経束の延長で、主にC8,Th1からの神経線維で構成されている。腋下動脈の内側を末梢に向かって走り上腕の中央で背側に向かい、内側筋間隔膜を貫き上腕三頭筋内側頭の前方に至る。肘関節の内側後方で尺骨神経溝を通り前腕に至る。尺骨手根屈筋の上腕骨頭と尺骨頭の間を抜け深指屈筋の尺側掌側縁に沿って末梢へ向かう。手関節部でギオン菅(尺骨神経管)を尺骨動脈とともに通過し浅枝と深枝に分岐する。浅枝は指神経として小指と環指の尺側の皮膚に分岐する。深枝は小指球を形成する筋に枝を出した後、環指と小指の虫様筋、すべての骨間筋、母指内転筋に枝を出す。
・高位麻痺(肘部管症候群など):上腕、肘関節部で損傷
・低位麻痺(ギオン菅症候群など):前腕遠位部、手関節部で損傷
<代表的な疾患>
①肘部管症候群
尺骨神経は尺側手根屈筋の筋膜を貫いて前腕深部に到達する。この部分を肘部管と呼び、この部分で圧迫され緩徐な経過で神経障害が発生する。
症状:環指尺掌側、小指掌側のしびれ感、知覚異常、環・小指の深指屈筋、尺側手根屈筋、母指内転筋、小指球筋、骨間筋、環指・小指の虫様筋の麻痺
②ギオン菅症候群
ギオン菅部でガングリオンや外傷により絞扼を受け発症する。
⇒ギオン菅:基底部を横手根靭帯尺側付着部、豆状・有鈎靭帯、尺側は豆状骨と尺側手根屈筋腱、橈側は有鈎骨の鈎、蓋は掌側手根靭帯からなるトンネルのこと。
ギオン菅内を尺骨神経と尺骨動脈が通る。
症状:手掌の小指球部、環指尺掌側、小指掌側のしびれ感、知覚異常、母指内転筋、小指球筋、骨間筋、第三・四虫様筋の麻痺
<尺骨神経麻痺の症状>
・高位型
低位型の障害に加えて、尺側手根屈筋の麻痺⇒手関節掌屈運動障害
深指屈筋の尺側半分の麻痺⇒環指・小指DIP関節屈曲障害
・低位型
小指球筋の麻痺⇒手指横アーチの崩れ+、母指と小指の対立運動障害
第三・四虫様筋の麻痺⇒鷲手(claw hand)
鷲手:環指・小指のMP関節が過伸展し(虫様筋の機能低下)、PIP関節とDIP関節が屈曲し手内在筋が働きにくくなるため。
手掌の小指球部、環指尺掌側、小指の知覚障害
| 出典:末梢神経損傷の治療 |
<誘発テスト>
elbow flexion test(肘部管症候群)
方法:肘関節を最大屈曲位に保持し、伸展位に抵抗を加える。
反応:尺骨神経の牽引状態において環指、小指のしびれ感の増悪を評価する。
Fromen's徴候(尺骨神経麻痺全般)
方法:側腹つまみの形で母指と示指の間に紙を挟み、検査者が紙を引っ張る。
反応:母指内転筋の機能を評価する。麻痺している場合、母指IP関節伸展位で保持することができず、長母指屈筋(正中神経支配)の作用により、母指IP関節屈曲位で紙を保持する。
⇒ポイント:母指内転筋は尺骨神経支配である(正中神経と間違えがち)。
Wartenberg徴候(尺骨神経全般)
方法:手指を閉じるような姿勢を保持する。
反応:小指の内転ができずに開いたままの状態になる。
以上が簡単ではありますが、尺骨神経麻痺を評価する上で必要な知識と評価方法についてお話させていただきました。尺骨神経麻痺の場合、小指球の麻痺に加えて、母指内転筋の機能低下がみられるため、手指に強い力を必要とする動作(ペットボトルのキャップを開けるなど)が困難になるケースを多く見受けます。神経障害により、どのような動作が困難になるのかを推測し、実際に評価することで、より生活動作に即したアプローチが可能になると考えています。次回は橈骨神経麻痺についてのお話をしたいと考えています。
では今日はこの辺で。
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