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失語症を理解するために①~言語処理過程と症状の分類~

こんにちは。

 連日、水害のニュースが相次ぎ心を痛める思いで日々過ごしています。皆様もどうかご無事でありますよう心から願っています。少しでも穏やかに過ごせる日が来ますよう祈っています。
 今日は「失語症を理解するために」というテーマでお話しようと考えています。「失語といえばSTだ!」と思われる方もいるかもしれませんが、作業療法士としても失語を理解することはとても重要だと思っています。作業療法士の養成校では、ブローカ失語とウェルニッケ失語とは何か?程度にしか学ぶことが少ないかと思われますが、実際はより複雑で理解することが難しいものだと考えています。私も臨床で「どのような分類があり、アプローチが効果的なのか?」を知りたく、北海道大学の大槻先生の講義にて失語について学んだ過去があります。失語を理解し、作業療法の中にも、治療要素を組み込むことができると思いますので、まずは失語の分類や画像の見方についてのお話をしていきたいと考えています。


<言語処理の過程>

出典:失語のみかた:よりよい治療・リハビリテーションのために

 この図は、言語の処理過程とその障害により生じる症候、および、その言語の処理過程に関与する脳部位を示したものです。

情報の出入り口(モダリティとして音を用いる)⇒聴覚処理・構音実現
言語情報の出入り口(モダリティとして音を用いる)⇒音声処理・構音制御
音韻の処理(モダリティフリー)⇒音韻処理
語の処理(モダリティフリー)⇒語彙処理・意味処理

 音韻の処理と語の処理(語彙処理・意味処理)は、モダリティがフリーであるため聴覚入力だけでなく視覚入力でも同じような処理過程を辿ります。


<失語症症状の分類>
【失構音(発語失行、アナルトリー)】
症状:構音の歪み・音の連結不良・抑揚異常を認める。
  構音の誤り方に二重の非一貫性がある。
  ①ある音素を構音しようとするとある時は誤り、ある時は正しく構音する
  ⇒whenの非一貫性
  ②誤る場合にその誤り方が一定ではなく、色々な誤り方をする
  ⇒howの非一貫性

領域:左中心前回中~下部(下端以外)
  ブロードマン4野中心の病巣:構音の歪み中心
  ブロードマン4野+6野の病巣:構音の歪み+音の連結不良

★失構音と構音障害の違い
失構音:音実現のプログラム・指令の問題
構音障害:音実現の実行器官の問題


【音韻性錯語(失構音を伴わない)】
症状:誤って意図する語と違った言葉を発語する。
  例;「マスク」⇒「カスク」

領域:左中心後回~上側頭回~縁上回~弓状束
  ※中心前回にも病巣があれば失構音を伴う音韻性失語になる。
  失構音を伴う音韻性錯語
  ①病巣が左中心前回に現局
  ②病巣が左中心前回+中心後回~縁上回
  失構音を伴う音韻性錯語では、音の歪みを認め、歪みの影響で錯語が出現する。

★音韻性失名辞
音韻性錯語が、語彙選択時(自発話、呼称etc)のみ出現する。
⇒復唱や書き取りでは出現しない。病巣は側頭~頭頂葉


【喚語障害】
症状:言葉を喚語できない現象を認める。語が言えないという訳ではなく、言うべき単語を想起することが難しい。失構音や音韻性錯語が重度であるがために、単語が正しく言えない場合は喚語障害に含まない。

領域:左下前頭回、角回~頭頂葉下部

【単語理解障害】
症状:単語を理解することに困難さを認める。

領域:左中前頭回、上~中側頭回後部


【語音弁別障害】
症状:言語音のみ選択的に聴取できない状態になる。自分の声が聞こえないため、声量調節や錯語を認める。

領域:左上側頭回(Heschl黄回)

★右上側頭回が障害されると、環境音失認(日常に感じる音が何の音かがわからない状態)を認める。


【ジャルゴン】
症状:わけのわからない言葉を発語する。
分類:構音レベル(失構音)⇒表記不能ジャルゴン
   音素レベル(音韻性錯語)⇒新造語音韻性ジャルゴン
   語レベル(語性錯語)⇒新造語語性ジャルゴン
   文レベル⇒文意ジャルゴン


【ブローカ領域失語】※ブローカ失語ではない。
症状:喚語障害、文理解障害を認める。
  
領域:ブローカ領域

★一般的に言われるブローカ失語は、ブローカ領域前後を含めた障害のことを言う。ブローカ失語では、ブローカ領域失語に加えて、失構音と単語理解障害を認める。


 というわけで、今回は言語処理の過程と失語症症状の分類について、大槻先生の図を用いて説明させていただきました。失語症タイプの分類までお話しようと思ったのですが、少し内容量が多くなってしまうのでまた次回お話したいと思います。脳血管障害の方の脳画像を見る時に、今日の内容と照らし合わせると「どのような障害を認めるのか?」を推測しやすいのではと思います。脳画像の見方や失語症の具体的な症状までを把握できるようになると、臨床での診療内容や対象者との関わり方が変化していくと考えています。


では今日はこの辺で。

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