スキップしてメイン コンテンツに移動

作動記憶(作業記憶、ワーキングメモリ)のメカニズムとアプローチにおけるポイント

こんにちは!

 今日は前回の続きではないのですが、作動記憶(作業記憶、ワーキングメモリ)のメカニズムとアプローチにおけるポイントについてお話したいと思います。


○作動記憶とは?
 「脳のメモ帳」と呼ばれる機能であり、一時的な情報の保持と処理を支える機構のことです。前頭葉の前頭連合野にある機能の一部といわれています。
 例えば「電話をしながら内容を紙に写す」という行為のように、「○○をしながら○○をする」といった時に必要となる機能が作動記憶になります。
 この作動記憶は短期記憶との関連性が高いといわれています。この短期記憶の容量について、無意味な言葉や数字を記憶する限界値を7±2とした「マジカルナンバー7」が有名ですね。現在は4±2とした「マジカルナンバー4」と呼ばれることが多いです。この短期記憶の容量を知っておくことは、作動記憶を理解しアプローチするためのキーワードになります。


○作動記憶のモデル

出典:前頭前野とワーキングメモリ


 この上記図は、中央実行系に対して音韻ループと視空間スケッチパッドとエピソードバッファの3つのサブシステムが協調しながら働くことを意味するモデルになります。次にそれぞれの役割についてお話していきます。

・音韻ループ
 音声言語的な短期記憶を担う。言語性の作動記憶と対応している。

・視空間性スケッチパッド
 視覚・空間的な情報の短期記憶を担う。空間性の作動記憶と対応している。

・エピソードバッファ
 エピソードや知識といった長期記憶を音韻ループと視空間性スケッチパッドに仲介させる機能を担う。また、音韻ループと視空間性スケッチパッドを調整する役割をもっている。

 
○作動記憶からのアプローチの視点
 作動記憶は、僕たちが生活する上でいつも働いている機能といってもよいでしょう。例えば歩きながら何か考え事をするだけでも働いているのですから。高齢者で歩行することがやっとの方であれば、ただ歩行するだけで作動記憶を賦活させることができる、といった文献もあるくらいです。
 作業療法士であれば「どうすれば作動記憶を活性化することができるのか?」と考えることもあると思います。この時に注意していただきたいことが、その課題が脳に対する過負荷になっていないかということです。課題を設定する適切な難易度としては、60%前後と書いてある文献が多いような印象を受けます。難易度が低すぎると、賦活されにくく、高すぎると、狙っている領域以外の場所が賦活化してしまうため、課題の難易度調整は入念に行う必要があります。
 脳卒中により、作動記憶に障害が出現するようになった方では、アプローチに加えて、環境調整が重要になります。特に職場復帰を目指す方であれば、職場の方への働きかけ(理解と協力など)と職場環境の調整(デスクの整理、仕事内容など)を行う必要もありますね。視覚で確認できるようにメモ帳を用いることを習慣化することや、自分がどれだけのことを一度に記憶できるのか、処理にどの程度時間がかかるのかを理解するための患者教育が重要になると考えています。
 冒頭でお話したように僕たちが短期記憶として記憶することができる容量は4±2といわれています。そのため、作動記憶に障害を受けている方や高齢者になれば、容量はもっと少なくなります。作動記憶は、必ずしも負荷をかけることが適切とはいえないため、今の能力を評価し生活上どのような影響があるのかを把握することが大切です。そして、正しい知識をもつことで、プログラム構成や退院後の支援に生かすことができ、より対象者に即したアプローチになると考えています。
 

では今日はこの辺で。

コメント

このブログの人気の投稿

作業療法士に必要なPreADLの捉え方とみる視点

こんにちは!  今日は主に病院で勤務されている作業療法士の方へ向けて、PreADLの捉え方とみる視点についてのお話をしようと思います。このお話は、理学療法士や言語聴覚士の方も大切な内容だと思っています。  僕たち作業療法士は患者様のやりたいことを大切にしながら日々の診療を行っていると思います。いわゆるdemandの面に着目するということですね。しかし、この視点だけでなく、患者様に本当に必要な能力、すなわちNeedにも焦点をおく必要があります。患者様によっては、むしろこのNeedを重要視する場合もあります。  このNeedに焦点をおくということは、患者様の現在の能力だけでなく入院前にどのような生活を送っていたのかを知ることがとても重要になります。この入院前の生活のことを僕の職場ではPreADLと呼んでいます。  例えば入院前はどのような歩行形態であったのか(T-caneなど)、入浴はどこで行っていたのか(デイサービスなのか自宅なのか)、食事は誰が作っていたのかなど、患者様がどのような生活を送っていたのかを詳細に調査する必要があります。    そして、そこで大切になってくることが入院前の生活を知るだけでなく、なぜそのような生活を送っていたのかを考えることが大切になります。  T-cane歩行の方では、なぜT-caneが必要であったのか、デイサービスにて入浴を行っている方では、なぜ自宅での入浴ではないのかなど、本来行えているはずの生活に補助具やサービスを用いている要因は何なのかを考えなければなりません。そして、入院前の生活状況と生活を妨げている要因を踏まえた上で、現在の状況から目標を設定することが大切になってきます。  作業療法士は患者様が必要としている生活行為を考えながら、その人らしい生活をサポートすることが大切です。しかし、その人がどのような生活を送ってきたのか、その人が満足いく生活であったのかといった面を考える視点をもつことで、より生活というものを包括的に捉えることができるようになると考えています。これまで、このような視点についてあまり考えたことがなかった方は、今日お話した視点をプラスすることで生活というものをより幅広く捉えることができるようになるのではないかと思っています。  今日はPreADLの捉え方とみる視点についてお話しました。...

失語症を理解するために①~言語処理過程と症状の分類~

こんにちは。  連日、水害のニュースが相次ぎ心を痛める思いで日々過ごしています。皆様もどうかご無事でありますよう心から願っています。少しでも穏やかに過ごせる日が来ますよう祈っています。  今日は「失語症を理解するために」というテーマでお話しようと考えています。「失語といえばSTだ!」と思われる方もいるかもしれませんが、作業療法士としても失語を理解することはとても重要だと思っています。作業療法士の養成校では、ブローカ失語とウェルニッケ失語とは何か?程度にしか学ぶことが少ないかと思われますが、実際はより複雑で理解することが難しいものだと考えています。私も臨床で「どのような分類があり、アプローチが効果的なのか?」を知りたく、北海道大学の大槻先生の講義にて失語について学んだ過去があります。失語を理解し、作業療法の中にも、治療要素を組み込むことができると思いますので、まずは失語の分類や画像の見方についてのお話をしていきたいと考えています。 <言語処理の過程> 出典: 失語のみかた:よりよい治療・リハビリテーションのために  この図は、言語の処理過程とその障害により生じる症候、および、その言語の処理過程に関与する脳部位を示したものです。 情報の出入り口(モダリティとして音を用いる)⇒聴覚処理・構音実現 言語情報の出入り口(モダリティとして音を用いる)⇒音声処理・構音制御 音韻の処理(モダリティフリー)⇒音韻処理 語の処理(モダリティフリー)⇒語彙処理・意味処理  音韻の処理と語の処理(語彙処理・意味処理)は、モダリティがフリーであるため聴覚入力だけでなく視覚入力でも同じような処理過程を辿ります。 <失語症症状の分類> 【失構音(発語失行、アナルトリー)】 症状:構音の歪み・音の連結不良・抑揚異常を認める。   構音の誤り方に二重の非一貫性がある。   ①ある音素を構音しようとするとある時は誤り、ある時は正しく構音する   ⇒whenの非一貫性   ②誤る場合にその誤り方が一定ではなく、色々な誤り方をする   ⇒howの非一貫性 領域:左中心前回中~下部(下端以外)   ブロードマン4野中心の病巣:構音の歪み中心   ブロードマン4野+6野の病巣:構音の歪み+音の連結不良 ★失構音と構音障害の違い 失構音:音実現のプログラム・指令の問題 構音障害:音実現の実行器官の問題 【音韻性...

CKCとOKCにおいて知っておくべき基礎知識と臨床応用➁~実践編~

こんにちは!  今日は前回の続きとして「運動連鎖」の考え方をどのように臨床に生かしたらいいかのお話をしたいと考えています。  前回お話しした運動連鎖の概念については、 CKCとOKCにおいて知っておくべき基礎知識と臨床応用①~CKC・OKCとは~ をご参照ください。  まずは簡単にCKCトレーニングとOKCトレーニングの種類についてご紹介します。 ・CKCトレーニング:スクワット、レッグプレス、ブリッジング、片脚立位保持、タンデム立位保持など ・OKCトレーニング:レッグエクステンション、ヒップアブダクション、SLRなど  前回もお話ししましたが、CKCトレーニングは主に下肢のトレーニングで用いられます。なぜなら、上肢の運動を必要とする食事や更衣などの生活行為の大半がOKCの動き方をするためです。しかし、上肢でもトレーニングの一つとしてCKCトレーニングを行うことは、非常に効果的であると考えています。例えば、前鋸筋や僧帽筋の安定性を高めるのに効果的なローローや広背筋の筋力を高めるために効果的なプッシュアップがあります。また、手掌を壁につけた状態で肩甲骨を挙上・下制・内転・外転するような運動では、ローテーターカフの負荷を抑えた状態で肩甲帯周囲の安定化を図ることができます。高齢者の方では、ローテーターカフに微細な損傷がある方や前鋸筋が弱っている方も多く、CKCトレーニングの方がよりリスクを抑えたトレーニングになると考えることもできますね。  これらのことから作業療法士としても知っておいて損ではない知識だと思います。そもそも損する知識などはないんですけどね笑。 次にCKCトレーニングとOKCトレーニングの各メリットについてご紹介します。 ○CKCトレーニングのメリット ①複合的な筋に対してトレーニングを行うことができる。 ➁筋力トレーニングだけではなく、一つの動作として運動を行うことができる(運動学習に汎化することができる)。 ○OKCトレーニングのメリット ①個別筋に対してアプローチしやすい。 ➁シンプルに筋力向上を効率よく高めることができる。  OKCトレーニングによって、個別筋として筋力を高めることができていても、実際の動作になると発揮することが難しい方も多く見受けられます。そのため、個別筋としてのトレーニングに...