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筋力増強運動を行う上での基礎知識

こんにちは!

 今日は筋力増強運動を行う上での基礎知識についてお話をしたいと思います。ブログの投稿内容として、運動療法の話が多いなぁと思っていますが、僕が好きな分野は神経科学分野なんですよね。なのでこれからは脳のお話も展開できたらなと思っています。ただ、まだまだ運動療法に関わるお話で話したい内容があるため、しばらくできないかもしれません笑。

 筋力増強運動を行う上で基礎中の基礎のお話を行います。これも、同じ職場や付き合いのある作業療法士と話している中で、運動療法における負荷量や回数の設定方法がわからない、といったお話を聞くことが多いため、一度ブログで紹介しようと思ったのがきっかけです。理学療法士の方は当たり前の知識だと思うので、あまり参考にならないかもしれません。


 まずは筋力増強運動を行うのは筋力低下を認めるからですよね(当たり前ですが笑)。その筋力低下の要因は大まかに2つに分けられます。

①筋性要因
 長期臥床や不使用により、筋そのものに委縮が生じることで筋の横断面積が減少することによる筋力低下
➁神経性要因
 疼痛や廃用により、神経活動が低下し運動単位数の減少や発火速度が低下することによる筋力低下。

 これらの要因により筋力低下が起こるため、セルフケアや歩行において、いままでできていたことができなくなります。筋力低下といえば、筋性要因に目がいきがちですが、神経性の要因もあることを加味する必要があることが大切になります。


 次に筋力増強運動における負荷と回数を設定する上でのポイントをお話しします。

 筋力増強運動を行う上でまず必要なことが基準値の設定です。この基準値は1RM(1回反復可能な最大負荷)を用いることが基本になります。作業療法士のみなさんは、学校で習わないことがほとんどですので、あまりなじみのない言葉かもしれませんね。この1RMの計測は、高齢者の方ではリスクが大きいため、○kgを○回まで実施できたということで、推定することがほとんどです。
下記にざっとまとめてみましたので参考にしてください。

<最大反復回数→1RMに対する割合(%)>
   1   →   100
   2   →    95
   5   →    87
  10   →    75
  12   →    67
  15   →    65

 次に負荷量と回数の設定方法についてお話しします。骨折や廃用により入院される方に対しては、主に①筋力増強と➁筋持久力向上を目的に運動療法を行うことが多いと思います。そこで、おおよその目安を下記にまとめてみます。

①筋力増強を目的とする場合
 1RMの60~70%の負荷で8~12回を目安に運動を行う。
 2~3分程度の休息をとり、2~3セット行う。
➁筋持久力の向上を目的とする場合
 1RMの40~60%の負荷で10~15回を目安に運動を低速で行う。
 1分程度の休息をとり、2~3セット行う。

 筋力増強運動の負荷と回数の設定に関しては、様々な論文が発表されており、それらの論文の中には、1週間単位で総負荷量を設定するものや、インターバルを1分以内で行う方法等、多くの発表がなされています。ただ、おおむね上記でまとめている数値が一般的かと思いますので、ぜひ参考にされてみてくださいね。


 次に筋力増運動をより効果的に行うために7つのトレーニングの原則をご紹介します。

①過負荷の原則
 日常生活でかかる負荷よりも高い負荷を設定しなければ筋力増強は見込めません。そのため、1RMを適切に設定しプログラムを立案する必要があります。
➁漸進性の原則
 筋力の増加に伴い徐々に負荷を高めていく必要があります。1週間に1度の頻度で1RMを計測し筋力が増強されていれば負荷を高くし、増強されていなければなぜ増強されなかったのかを再評価しプログラムを再立案することが大切です。
➂反復性の原則
 適度な負荷の運動を適度な間隔で反復します。過負荷になりすぎないように対象者の疲労の程度を確認しながら行う必要があります。
④特異性の原則
 筋力増強運動の目的を明確にしプログラム立案を行います。
➄意識性の原則
 対象者の方が運動の目的や必要性を理解し意識的に取り組むように働きかけます。
➅個別性の原則
 個々の能力や目的に合わせてプログラム立案を行います。年齢や併存疾患、栄養状態など多くの要因が関与するため、対象者それぞれに合ったプログラムを選択します。
➆全面性の原則
 筋力増強を目的に運動を行うのではなく、実際の生活で○○ができるようになるために運動を行うことが重要です。単筋にだけ焦点を当てるのではなく、複合的な運動や具体的な動作の練習を組み合わせてプログラムを立案します。

 
 適切な負荷と回数、セット数の設定だけでなく、上記の原則に従うことで、より効果的な運動療法を提供することができます。作業療法士であれば、生活行為に目を向ける必要がありますが、生活行為を行うために何が必要かが大切です。そして、一手段として運動療法を行う。今日のお話はそのための基礎知識だと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

では今日はこの辺で。

 



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